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スクーデリア・フェラーリ史上、最も不運とも揶揄される「640(F189)」。間違いなく、マシンは年間優勝を争えるだけのポテンシャルを持っていた。にもかかわらず、ただ一点、新規のトライである「セミAT」が実用に満たなかったがために、何度となくレースから脱落していったのであった。1989シーズンよりターボが廃止され、採用となった 3.5L V12 NA はフェラーリの得意とする仕様であったため、常勝が期待されていた。事実、セミATの耐久性が安定したマンセルのマシンは、シーズン中盤で連続表彰台の活躍を見せていた。しかし、僚友のベルガーと合わせて19ものリタイアを喫したため、優勝争いには遠く及ばず、期待とは大きく異なる苦いシーズンとなったのであった。しかしどうだろう。約30年の時を経たこのマシンのサウンドをあらためて聴いてみると、確かにエグゾースト・ノートには王者の風格漂う芯の力強さを感じる。成績の陰に隠れてしまったが、「実は傑作だった」と言い伝えられる所以が垣間見えるのであった。セミATさえ間に合っていれば…。